グッドマン・インタビュー

その57 (1999年6月)

鎌田雄一


坂上聡 (ts)(bs)

1970年4月2日、大阪、生まれ。東京都を転々とし、福生で育つ。
福生高校、卒。
グッドマンには、'98年11月、市村智(g, ts) 久行ちづる(vo, perc)と3人で出演、以後、イレギュラーでサックス兄弟として出演中。

K. 高校、出てから何やってたの?
S. 色々やってまして、仕事は、やったりやらなかったりで、絵を描いてました。アメリカに留学もしました。インテリです。ただ、こう言うと、お金持ちと思われるでしょうが、お金持ちでは、ありません。……日本に帰って来て、音楽を始めました。こう言うと、カッコよく思われるでしょうが、その間に色々ありまして、しゃべると長くなるので、やめます。

K. アメリカでは、何を習ってたの?
S. 彫刻を習ってました。石をけずってて、マシーンハンマーと呼ばれてました。私は、やり出すと止まらないんです。数学もやってましたが、先生に、日本人にしては数学の苦手な人ですね、と言われました。

K. 絵、彫刻、ときて、音楽をやるようになったキッカケは?
S. 基本的に絵も彫刻も音楽も私の中では一緒です。サックスをやってる時でも音楽だと思ってやってるわけではありません。質問の答えとしては、友達がキッカケです。(現在、脳ゾイド、カーソンズ、でバンド活動中)

K. 音楽って、みんなでワイワイ作るのが楽しいよね。絵とか彫刻って、ひとりでコツコツやるじゃない。……だから、グッドマンでは割りとソロで演ってる人が多いんだけど、ちょっと気が知れないんだよね。……そういうこともあって、音楽やるようになったのかな?最初からサックスなの?
S. 高校卒業まで、バイオリンをやってました。それでイタリアにも行ってます。こう言うと、すごいテクニシャンと思われるかもしれませんが、そうでは、なくて私のバイオリンの音には何というか味がありました。じゃあ、それでイタリアに行ったのかとオーケストラに入っていたのですが、そのオーケストラがイタリアに呼ばれたので、私も行ったのです。……ちょっと話がズレてしまいました。
 みんなでワイワイ作るのも楽しいんですが、私としてはみんな一人一人が一緒に、同時にソロをやる、という感じで、やりたいので、みんなでやってるんだけど、ひとりでコツコツやってるのと、あまり変わらない。……いや、でも、こう言うと友達を無くしそうなので……いや、でもあえて言わせてもらいます。一人でやろうが何人でやろうが、あまり変わらない。変わるのは、テンションです。

K. そのテンションこそが、他者との出会い。確かに即興演奏の場合、基本にあるのは、「しっかりした個」だと思いますが、その「しっかりした個」が「しっかりした他」にゆるがされる時に、おもしろいものが出来るんじゃないでしょうか?
S. ゆるがされるような「個」は、大したものじゃありません。その場合、ゆるがした「個」の勝ちです。ゆるがされた方の「個」は、有っても無くてもいいようなものです。ちっともおもしろく、ありません。

K. 勝ち負けが、ハッキリするのが面白いわけ?
S. 勝ち負けが全てでは、ありません。ただ何かをやっていて勝ち負けをハッキリさせるのも面白い要素の一つです。

K. 勝ち負けって、スポーツやゲーム以外は、絶対ハッキリしないと思う。例えば、戦争で、征服した民族が征服された民族の文化的影響を、ものすごく受けるようなことは、過去に何度も、あるしね。
S. たしかに、音楽をやっていて、勝ち負け、というのは個々人意見のわかれるところだと思います。だから個々人「オレは勝った」「オレは負けた」ないし「あいつは勝った」「あいつは負けた」と思っていれば良いのです。……戦争は、また違います。戦争になると、やりたくない人までをも、まき込んでしまいます。個の確立とは正反対になってしまうのです。

K. 音楽だって、勝ち負けを問題にしたくなくてやってる人と演奏する時は、どうなるの?……あなたの参加してるバンドのメンバーは、みんな「勝った」「負けた」と、やってるんですか?……だいたい、「しっかりした個」なんてものは、まわりの人間によって、作り上げられたものでしょう。
S. もう一度、言いますが、勝ち負けが全てではありません。やってて面白い要素の一つにしかすぎません。私は勝ち負けを問題にしてやっているわけでは、ありません。バンドのメンバーも、そうです。コミニケーションの時に、勝った負けたと笑いながら話せば、それで終わりです。……私が何を問題にして、やっているのか、と問われたら、生の充実感を味わうためだ、と言います。
 他人によって作りあげられた個なんぞ、個ではありません。単にイメージだけです。個を作り上げていく過程では他人は欠かせないとは思います。ただ最終的には自分で決めることです。「しっかりした個」とは、行きぬいていくプロセスです。

K. ……なるほど。……それを言うなら、オレは音楽をやっていて、自分がゆるがされたり、ひとをゆるがしている、その過程に、生の充実感を味わうなぁ。……だから、「ゆるがせない個」なんてものには全然興味がない。そんなもの、はたして、この世に、あるのかねぇ?
S. ありません。私は、それをめざしてます。私は世界の果てに行きたいのです。人は、みないつか死にます。死を受け入れる用意が必要です。

K. 死の話が出たので、ここで市村さんからの質問を「先日、友達が自殺した、と聞いて、結構ショックで、今も少し引きずってるのですが、坂上さんも自殺を考えたり、又は自殺してしまった人について、どう思いますか?」
S. 私も自殺しようと考えたことは何度もあります。一番遠い記憶で、小学校の時です。理由は言いたくないので言いません。今でも、あります。生きものというのは、いつも死ととなり合わせでいるものです。おのれを破滅にまで導く欲望にかられても、おかしなことでは、ありません。それの方が、その人にとっては良い人生が送れる場合だってあります。
 現代は、うつ病気質の人が多いらしいです。いかに現代から飛び出すかは、その人しだいです。市村さんのお友達は自殺という方法を選んだのです。市村さんにつきつけられているのは、そのショックをいかにのりきるか、なのです。死人に口なしです。好きに生きようでは、ありませんか。


このあと、脳ゾイド、カーソンズ、サックス兄弟のメンバーをおもしろい表現で紹介してくれたのですが、スペースの都合で、のせられません。本人に直接、きいて下さい。
一応名前だけ。脳ゾイドは、gとvoが有田さん、ドラムが端龍(はしりゅう)さん、ベースが水野さん、percが和田さん。カーソンズは、グッドマンでは、S.D.の名前でやっている日置さんのgと木下さんのサンプラーに、坂上さんと、有田さんの4人。5/17に新宿のヘッドパワー、5/25に高田馬場のエリア、6/21に神楽坂のディメンションでライヴがあります。サックス兄弟は、前回インタビューした市村さんと二人。彼によると市村さんという人はアルバートアイラーのサマータイムのような人だ、とのことです。
次回は岩崎正樹さん(as)の予定です。

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