グッドマン・インタビュー

その60 (1999年9月)

鎌田雄一


新井陽子 (p)

1961年8月25日(金)8:45PM、東京生まれ。東京育ち(のようなもの)。
東京音楽大学ピアノ専攻、卒。
グッドマンには、'99年1月より、毎月ソロで出演。

やっぱり、ずーっとクラシックをやってたんですか?
 子供の頃、姉がピアノを習い始めて、それをまねして遊びで弾き始めて、ずーっとピアノを弾くことが遊びだったので、クラシックをやっている意識はなかった……かな。
 中学の頃は、ロックが好きで、よく友達とレコードの貸し借りをして、聞いていました。
 高校生になってからロックをやろうと思っていたら、学校の軽音クラブがつぶれてしまっていたので、ブラスバンドに入って、ベースとファゴットをやりました。クラシックを本当に聞き始めたのは、この頃からだと思います。……で、進学の段階で、音大に行って、やっぱり、ピアノをやりたい、と思い、高2の終わり頃からピアノを習い始めました。
 大学へ入ってからは、まぁレッスンではクラシックをやるわけですけれど、わりと近代、現代の曲が好きだったので、勝手に曲を選んで、レッスンに持って行って先生にヤな顔をされていました。在学中はガムラン同好会に入りびたって、ジャワガムランをやっていました。他大学のガムランクラブとの交流もあり、インドネシア人の先生にもきてもらったりして、すごく色々なことを学んだと思います。……その他、パフォーマンスをやったり、卒業してからは、「声明」のグループに参加したり、芝居の音楽をやったり、(ベケットなど)、色々な事をやりながら、ピアノを弾いていたっていう感じでしょうか。

へー、クラシック一辺倒、ピアノ一筋って感じでは全然なかったんですねぇ。じゃあ山口さんからの質問があるんですが、こんな苦労は最初からなかったんですね「クラシック出身の人は譜面に無い音を、なかなか出せない、と云ふのは、よく聞く話なんですが、新井さんも、さうでしたか?もし、さうならば、何らかの努力をしたんですか?
 私は、姉が弾くのを見よう見まねでピアノを弾くようになったので、楽譜が読める様になったのは、中学か高校に入ってからだったと思います。……だから、イタズラ弾きというのは、よく遊びでやっていたので、フリーミュージックをやる事に関しては、苦労と言えるものは、感じた事は、ありません。

色々な事をやってきた新井さんにとって、ピアノというのは、どんな位置関係に、あるんですか?
 子供の頃からの事を考えれば、ピアノの音が鳴るのが楽しくて、慣れ親しんでいた、ということでしょうか。大学へ行こうと思ったのも、もっと音楽を体験したかったからだと思います。そういう気持ちは今でもかわらないのですが、舞台に乗る経験が増えていったり、音楽を仕事として、やることがあったりしていくと、ピアノを弾くことの体験が、自分の弱さとか、今課題になっている事は何であるか、とかそういう色々な事を目の前につき付けられているみたいで、お坊さんが、修業しているのって、こんな感じなのかね……なんて思う時が、あります。

じゃあ、ピアノをやっていて、その都度つきつけられる課題というのは、過去どんなことがあって、今は、どんなことにとりくんでいるんですか?ガムラン、声明、パフォーマンスなどは、その時々の打開策だったんですか?
 ちがうんです。ピアノをやっていて、ある種の課題を解くために、他のことをやった、というのでは、ないんです。
 音楽を通して、自分の思いもよらなかった世界を知ったり色々な人と関わったりして、たまたまピアノをやっていたことが、自分の外の世界とつながって行くきっかけになっていた、と思うんです。
 去年の2月まで、私はある女性の為の労働組合の役員をやっていて、実際に労働相談を受けたり、会社に交渉に行ったりしていました。……なぜ、そういう事をやるようになったかというと、あるラウンジでピアノを弾く仕事をしていて、賃金の踏みたおしにあって、ある人に組合の人を紹介してもらって、交渉した、ということがありました。後に、女性のリストラが多い時に、一人だけでも相談交渉が出来る組合を作るから、あなたも参加しないか、という話があって、加わりました。「労働組合」なんて今まで何の関係もなかったし、イデオロギーなんて何も持ってなかったんですけれども、自分の経験を通して他の人の力になれるシロウトの組合を作ろう、ということでしたから、自分のやって来たことを大切に考えている人たちの力になれるのなら、と思ったんです。
 そこで、様々な自分とは異なる生き方、立場、経験を持った人達と知り合いました。実際に企業への交渉にも行きましたし、集会や交流会にも参加しました。そんな中でも交流会にピアノコンサートを持ち込んだり皆で本を執筆したりして、自分としては、一般的サラリーマンではない人間が何を考えて、例えば音楽なら音楽をやっているのか、ということを伝えたいと思いました。自分の仕事や、人間としての立場に対する思いはみんな同じだと思いましたから……。
 そうやって一見、音楽とは関係のない事に深く関わって……今、自分にとって一番大切なのは、自分が今まで吸収して来た事を集約して音楽にして行く事なんだ、と感じました。他人を助けることを考えるのであったら、まず自分のことをしっかり創り上げる事が必要なんじゃないか、と思いました。……それで、組合をやめて、自分が本当に気持ち良く、自由になれることを、ふくらませて行くことに集中しようと思い……。まぁ、それが今後の大きな課題なのかな……。

今、定期的に演奏しているのは、グッドマンと、阿佐ヶ谷のクラシック喫茶「ヴィオロン」ですか?ある程度、やることは、わけてるんですか?
 ヴィオロンでは5年程前から、自分の興味のある曲や、即興演奏で、プログラムを組んでやっています。譜面になっているものをやることが多いですね。モンポウとかグルジェフとか……。お店自体が個性的なので、それも考えて……。
 グッドマンでは、曲をやらないで、即興演奏主体です。……これからは、ピアノだけでなく、色々な音を取り込んで、いろんな人といっしょにやる機会も持ちたいと思います。

それで、今回、8月の即興ユニットネットワークにも参加してくれることになったんですね。10月もぜひ。


次回はギターソロの山下政一さんの予定です。

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