グッドマン・インタビュー

その74 (2000年11月)

鎌田雄一


難波博充 (ds)

1954年2月22日、山形県は鶴岡市の隣り村に生まれ、育つ。
鶴岡工業高校、機会科、卒。
グッドマンには、'96年9月より山口正顯sax 斉藤浩pとCommezauxで出演開始。すぐにsaxが小川圭一に代わり、'98年、初頭まで続く。現在は小宮いちゆうtp5 で1ヶ月おきに出演中。

最初に、前々回インタビューした小宮さんからの質問で「私にとっては、とても不思議なドラマーに感じますが、実際のプレイと言葉の概念について……例えば、ああしたいとか、こうしたいとかいうことと、実際のプレイの関係について、どんな考えをもっているのかききたいです。
 最近"脳"に興味が、ありまして、実際にplayしている脳の経路と、その他の行動している脳の経路とは、違う様に思います。
 言葉の概念については、言葉は、他にくらべて、あまりにハッキリしていて強すぎるし、コミュニケーションの手段としては便利なのでしょうけど、信用していない部分が多々あります。私にとっては、そんなに重要でないし、追求する対象では、ない。
 実際にplayする時には、大体のVISIONが、あります。(こうなるかな、という予想や、こうしたいという希望)しかし、始まってみると、他人の脳とのつながりですから、どんどん変化していって、その間、面白いと思われる策略を出したり、ひっこめたり。小宮バンドでは自由にさせてもらっているし、こういう中では、ドラムは強いので、他の人の意向は無視して、勝手にGrand Designを描いて、やらせてもらっている場合が多いです。

言葉を重要視しないとすると、このVISIONやGrand Designは、どのような形で思い浮かべるんですか?
 日常的に、いろんな形で外から様々な刺激を受けているわけですが、その時に自分の中に印象として強く残ったものを音楽で表現したい。例えば、あったかいとか、硬いとか、広大な空間にいる時の感覚とか、ですかね。

なるほど。……じゃあ、最初に出てきた、playしている時の脳と、それ以外の時の脳の違いを、もう少しくわしく話して下さい。
 生まれて来た瞬間から、いやおうなく、他の人間との関わり合いに、さらされてしまうわけで、いわゆる社会というやつと、どう関わって行くかを勉強していくわけです。自分は、こうしたいがそれは、まずい、という場面が多々あるわけで。そうでない場合は、あまり何かを創りあげる作業をしていないボーッとしている時か、寝ている時。
 これらと違って、playしている時は、常日頃、奥にしまいこんでいた脳の部分とか回路をフルに全面に露出させ、全開でやりまくる、という感じかな。

それは、音楽活動を始めたころから、そうなんですか?
 もともと芽としては、あったと思います。ちっちゃな頃から、変なヤツだった様です。要領がいい所と、変な所が、混在していたし、使いわけが出来る、ずるい子供でした。そんな中で、兄の影響で、ラテン音楽とかクラシックを聞き、脳内に序々に快感物質が生成される過程をへて、おさだまりのグループサウンズ(なつかし〜い。)や、ブラスバンドをやって、アマチュアのクラシックのオーケストラなんかも、やりましたが、21才ぐらいの時に、ザックリとJazzやSoulに、はまり、本格的にドラムを習い始め、少しうまくたたける様になった時に、いわゆるハコバンの仕事を始め、その中で知り合った仲間と、テクノっぽいプログレバンドやラテンフュージョンバンドなどを、やっていました。33才頃までは、こんな事をやってたと思います。その後、一身上の都合で、そんな生活をやめまして、伊豆の下田に引っ込みました。しばらくしてトランペットの庄田次郎さんと知り合いました。そして、40才になって、一身上の都合により、一般人を、やめまして、再び、音楽を始め、New Jazz Syndicateに参加し、Commezauxを結成し、現在に至っている。

難波さんにとってNew Jazz Syndicateとは、何でしょう?
 現在のN.J.S.は庄田さんそのものなので、庄田さんを観たくなったら、やりに行くし、ミュージシャン捜しの場でもある。

今は、小宮バンドの他は、どんなバンドをやってるんですか?
 Vertigoという三浦p 池上b 大越b によるバンドと、Secret Colorsという、小林g 斉藤p 石川p 美恵sampler 矢野 ターンテーブル 猿渡b によるバンドをやっています。
 Vertigoの方は、メンバー間の音楽面における、新しい脳のつながり方を開発していく、という方向性。
 Secret Colorsは、Hip Hop, Jazz, Tecno等のおいしい所をセンスよく一つの音楽として成り立たせようと、もくろんで、やってます。
 いずれも、あまり人前に出ず、リハーサルばかりやっています。個人のプレイは未完成の過程でもいいけど、バンドとしては、完成したものを、聴いてもらいたいから。

最近の音楽界に、不満、怒り、など、あったら、どうぞぶちまけて下さい。
 悪いけど、言っちゃうよ!!これに関しては。
 自分自身ハッキリ具体的な音をまだ出せていないので、抽象的な言い方しか出来ないのですが……皆んなもっとはみださないと。……'50年代、'60年代の様なパワーと勇気を持って、今の時代から、ど〜っと、ぶち抜けていく、そんな基本型を創っていこうよ、もっと。……ここまでで、反論が、あれば、どうぞ……。

いやいや、基本的には賛成です。……だけど、しいて言わせてもらえば、'50年代、'60年代は、社会的にも、音楽的にも、基範となる価値観が狭く、そして強かったので、それに反抗するサブカルチャーもパワーを出しやすかった。しかし、今や、カルチャーもサブカルチャーも渾然一体。はみ出そうにも、相手がふくらみすぎて何をやっても、とり込まれてしまっているように思うのですが、どうでしょう?
 新しいテクノロジーや、様々な潮流が、いやおうなしに、おそよせてくる今において、たくさんの問題が起きて来ている。それらの問題の根底にあるのは、人間が生み出した環境に、人間自身がついていけない所から発生している様に感じられます。つまり、人間自身が、前と、あまり変わっていないから。……個として変わっていかなければ、又、個と個のつながり方も変わっていかなければ、と思っている。
 その事は、今の時代、これからの時代にもっとも足りない事だと思うし、必要な事だと、私は感じています。それには、音楽という創造の場が、最も適していると考えています。
 私のやっている音楽の中で言えば、相手の音に添うというよりは、相手の音を利用して、違うベクトルの可能性(空間や質感の変化や拡大)を、さぐっていく作業をしているわけです。
 既存の意味性の中だけで音楽をしていくのはいやです。
 自分の脳が、社会システムに、いやおうなしに組み込まれて、しまうのは、かんべんしてもらいたい。

なるほど、音楽創造を通して、脳の奥の回路を全開にして、皆んなで脳をはみ出させ、新しい人間関係を創ろう、ということですね。素晴らしい、やりましょう……と、ハイになったところで、いきなり、前回インタビューの旧橋さんからのロウな質問。「明日、この世の終わりが、おとずれるとしたら何をしますか?
 おそらく、ジタバタ、ドキドキ、ハフハフしながらいっちゃうんでしょうね。小心者ですから。


難波さんちは、吉祥寺の井ノ頭公園の裏。自転車で行くつもりだったけど雨だったのでJRで行ってきました。次回は、10月の時点で一番新しい人に廻したい、ということで、saxの多田葉子さんに、お願いする予定です。

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