グッドマン・インタビュー

その78 (2001年3月)

鎌田雄一


 照内央晴(てるうち・ひさはる) (p)

1972年6月13日、東京、世田谷に生まれ、育つ。
世田谷区立桜丘中学校、卒。
グッドマンには、'96〜7年からユニークバンドに参加し、1ヶ月おきに出演。ネオキュノポリスにもゲスト参加。次回は6月に参加予定。

ピアノは、いつから、どんなキッカケで?
 幼稚園の頃、泣き虫で友達が出来なくて……たまたま近所に音楽教室があったので、友達が少しでも出来たら、ということで、親が行かせたみたいです。結局、変わらなかったようですが、音楽教室の子の中では、ピアノは伸びた方でしたね。あと、そのころから自分の弾きたいように(即興で)ピアノ弾くのが好きで、親から、ちゃんと曲の練習をしなさい!と随分言われてました。小1〜2の頃はベートーベンの曲とか、よく弾いてて、本当にちっちゃいコンクールですけど、賞を貰ったりしました。小3〜4の頃に、ドビュッシーなどが好きな先生に変わり、影響を受けて印象派の曲とか気に入って弾いてて……YAMAHAの教室だったので小5〜6は、ちょこちょこ先生が変わりました。中学からは家では弾いては、いましたが先生には、ついていなくて、16才〜20才の頃、二人の先生に、つきました。その後、小賀野久美(おがのくみ)先生にも、演奏にほれこんで、かなり無理を言って、習ったりもしました。
 小賀野さんは、僕の大好きな三善晃の曲の演奏が、とても凄くって、コンサートに、通いつめていました。20才の頃、僕は精神的に混乱していて、うだうだと煮えきらない生活をしていて、現代音楽を聴いてばかりの日々だったのですが、小賀野さんには、音楽中毒みたいに聴いてばかりじゃ駄目だ。自分で何か、やらなきゃ!と、随分言われました。技術面でも役に立つアドヴァイスを頂きました。それまでは、がちがちに、こり固まって弾いていたのですが、手の脱力の方法を具体的に教えて貰いました。力を抜かないと、響く、よく通るフォルテシモの音とか、出ないんですよね。ハノンとかも、音をはずしていいから、手首と腕の回転を楽に、させる練習とか……。

聴く方も、小さい頃から、クラシック一筋?
 幼稚園卒業の時、音楽教室の先生に、チャイコフスキーのピアノコンチェルトを、すすめられて、その頃から、レコードとか、よく聴いてました。レコードを誕生日とかクリスマスとかに買って貰えるのを楽しみにしてました。小4の頃は印象派のレコードとかも、よく聴いていた記憶があります。サンソンフランソワとか……。小5の時にFMで流れていた三善晃の曲に衝撃を受け、その後、傾倒してゆくことに、なります。音楽的にも精神的にも強い影響を受け続けてきたように思います。
 ずっとクラシックや現代音楽ばかりを聴いていましたが、また自分でピアノを弾こうとしだした時期から、少しずつ、ジャズやポピュラーやボサノヴァなど色んな音楽に触れるようになりました。それまでは、自分の中に何かこだわりのようなものがあって、色々な音楽に触れたい、という気持ちがおこらなかったのでしょうね。……少し気持ちが自由になりかかってきた頃に、僕のいとこで、音楽家でダンス批評もしている桜井圭介(10才、上)に色んな音楽に触れるきっかけを与えてもらいました。当時は時々一緒にレコードを聴いたり、してたんですよね。プーランクのヴァイオリンソナタで、ルイカウフマンが弾いているのがあって、とてもよい演奏なんですけど、そんなの聴かせて貰っているうちにタンゴのオスバルドプグリューセのヴァイオリンも良い、とか言って……そんな具合に、どんどん色々な音楽を聴くようになりました。

色々な音楽を楽しむようになったところから、今のユニークバンド参加に、つながってゆくんでしょうか?
 それが、直接、ユニークバンドでの活動に、つながった訳ではないのですが……。でも、現代音楽しか聴かない!という頃に出会っても参加しようとは、思わなかったでしょうね。基本的に、何でもありのバンドですから。
 もともとユニークバンドは、ユニーククラブという精神障害者の、地域の施設(共同作業所)で、障害を持つ人、また、その場で仕事をしている人が一緒に音楽活動をしよう!ということで、始まったもののようです。その後、僕が現在、携わっているCrazy Catsという施設、兼ライヴハウスが'96年に出来、今ではユニークバンドの構成員もCrazy Cats所属の面々がおおくなっています。また、Crazy Catsでは、月一回、「こんとん」というイベントをやっています。ユニークバンドも「こんとん」も自由に参加できるという意味では似ているのですが、それでも一応ユニークバンドは、中心メンバーがいて、こういう曲をやろう、とか決めてやっていますが、「こんとん」はむしろ、あまりふだん表現したことのない人にも、どんどん何かやってみてもらおう、という趣旨で始めました。表現する機会のなかった人にも、何か表現することの面白さを感じてもらえたらいいな〜と思って。「こんとん」は「こんとん」で、下手でもいいから、という雰囲気を保って続けてゆくのって、なかなか難しいんですけど……。

そろそろ、ユニークバンドとは別に、自分自身のプロジェクトをやる予定は、ないの?
 おぼろげには色々はじめてみたいなぁ、というのはあるのですけど、具体的には、まだ……。
 ただ、Crazy Catsでは、自由参加型ではないバンドの寄せ集めみたいなイベントも不定期でやっているので、そこでは、ヴォーカル2〜3人、ギター、ベース、ドラムス、ピアノ、プラスアルファでカヴァー曲をやったりしてみているのですが……。まだ自分が音楽を通じて、どういうことをやりたいのか、とか、何を表現したいのか、とか、よくわからないんですよね。それだけに、手さぐりでも少しずつ模索してゆきたいと思っています。あとピアノも技術的にもまだまだ、だし、クラシック以外の音の表現の引き出しも殆どないのでこれから修練して拡げてゆきたいのですが……。音楽一筋で生きている訳ではないので、なかなか次の一歩を踏み出せなくて……。その辺り、自分の課題だなぁ、と思っています。

じゃあ最後に、神田さんからの質問で
即興している時、特に注意していることは、何ですか?ユニークバンドで、どんどんヒートアップしていく照内さんは、楽しそうで、とても印象的でした。そんな時の照内さんは、音を理性的にコントロールしているのでしょうか?あるいは無心ていうか、あるいは偶然出て来た音を受け入れていく、というような感じなのでしょうか?
 確かにユニークバンドなどで演奏していてヒートアップしてきて、面白いなぁ!楽しいなぁ!って思える時ってあるんですね。ユニークバンドは人数がかなり多いので全員とは音の表現上のやりとりが出来ないのだけど、それでも一人二人とのやりとりで、とても気持ちよく触発しあえる時があるのです。そいうう時って演奏していて良かったなぁ、大げさに言えば幸せだなぁ、と思います。
 ただ、ヒートアップしても、人数が多いので、全然音と音を通じて出会って、やりとりをするということがなくなって、ただパワーで押し通すだけの演奏にもすぐなってしまうので、そういう時は、やっていても、すごく不快だし、その気分を暫く引きずります。その辺りを、どうするのかを含めて、広い意味で即興演奏している時の人間関係なのでしょうし、普段の人間関係とも大いに関わりがあるのだろうと思います。今は、普段、練習したり、集まったり、ということがないバンドなので、なかなか、うまくいきませんが、これから、もう少し工夫してゆけたら、と思っています。
 あと、演奏していて、自分の音の引き出しの少なさは痛感します。表現できる和音とか少ないんですよね。その瞬間その瞬間、出会うのが即興だと言っても、音の引き出しや、技術がないと、結果的に、出会って表現できることが限られてしまう。


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