グッドマン・インタビュー

その77 (2001年2月)

鎌田雄一


 神田晋一郎 (p)

1976年5月13日、埼玉県、川越市に生まれ、育つ。
東京学芸大学、大学院在学中。(ピアノ科。現代音楽や即興演奏の研究をしている。)
グッドマンには、去年の5月から、色々な人とデュオで毎月、出演。

子供の頃から、大学では、音楽を学ぼうと思っていたの?
 家族が、みな音楽好きなので(父は高校の音楽教師、姉はヴァイオリニスト。)、とくに目的もなく日常的に音楽に接していました。
 自分が高校生くらいの時から、音楽について、もっと知りたくなり、その勉強ができる大学を選びました。しかし、クラシックを専門にやっていくつもりは、なかったので(ジャズ、即興、に興味があった。)、いわゆる音大ではなく、おろんな勉強をしている人たちがいる大学、そこでジャズサークルに入ることにしたのです。

現代音楽や即興演奏の研究というのは、どのあたりのものを、やってるんですか?
 フランスの作曲家のようなアカデミックな人達の曲から、ジョンケージのような人のものまで、はばひろく演奏してみる、ということを、主にやっています。……ですが、実は研究と、いえるほど、だいそれたことをしている訳では、ありません。というのは、そういう専門の教授、研究室がないので……。ですから、自分が勝手に、自分の音楽の為に、いろんなものを聴いたり、読んだり、作曲の先生のところに出入りしては、話を聞いたり、という感じです。
 即興は、最近は特に、三宅榛名、小杉武久などを聴いて、います。三宅さんの、即興ワークショップにも参加したことが、あります。

卒業したら、音楽教師に、なるんですか?
 今のところ、そのつもりは、ありません。3〜4年ほど前から、ピアノで仕事をするようになったのですが、それを少しずつ増やしていけたら、と思います。……それらの仕事は、とても安定したものとは、いえないのですが……。2月3月はパーティーで弾いたり、小、中、高校の音楽鑑賞教室などで、ラテン系バンドで演奏したり、ミュージカルのバンドに参加したり、と色々やってます。

音楽を職業にして、色々な音楽を演っていると、自分の本当にやりたい音楽が、わからなくなってしまう、なんてことは、ないですか?
 それが、きっかけで今のようなスタイルになってきたと思います。
 以前はジャズが自分の本当にやりたい音楽で、ファンク系も、ラテン系も、こなせるジャズピアニストになりたいと考えていたのですが、ジャズをやる時は、よりジャズ的に、サルサをやる時は、よりサルサっぽく、というようなやり方が何だか、スタティックなイデアに主体が弁証法的に近づいていくような感じがして、それでは、音楽が自分のアイデンティティに、なり得ないのでは、ないか、と考えるようになりました。
 それで!手本のない自分のやり方を考えよう、と。……ジャズもラテンも演奏することは、楽しいので、今は、自分のジャズもラテンも演奏することは、楽しいので、今は、自分の音楽とは、完全に分けて、それぞれ楽しむように、しています。

三宅さんの即興ワークショップというのは、どんなことするの?
 その行った頃の自分の即興のイメージは、まだかなりジャズ的思考でした。コードワークのような秩序、そういったものから、どう外れるか……フリージャズ的だったのですね。ですから、その頃は、楽器も使わず、とりあえず何か即興してみる、という発想が、あまりなかった。三宅さんのワークショップでは、最初に「とりあえず二人、組になって、声などを使って、5分間即興する。」ということを、やりましたが、どうしてよいかわからず、冷や汗かいて固まってました。
 その後、即興をすることは、どういうことか、などの話をされたり、二人組を、三人、四人と増やしてやってみたり、楽器を使ってみたり、テクストを使ってみたりして、いろいろ考えさせられる時間でした。

卒論のテーマへのヒントとかになったんですか?
 できるかどうか、全然わからないのですが、「演奏すること」について考察する哲学論文っぽいものにしようと思っています。クラシック、現代音楽、ジャズ、即興、とそれぞれ全くちがう演奏へのアプローチを体験しているので、そこに音楽美学、テクスト論などを通じてクリエイティブな音楽行為、ということを考えたい。……そのさいに、確定的、不確定的、という軸は、ひとつの重要な視点と、なりうるでしょう。ワークショップが大きなヒントになったことは、言うまでもありません。

グッドマンでは、毎回、色々な人を呼んで共演してますがどんなところをポイントに置いて、選んでるんですか?
 共演できる人が、あまりたくさんいるわけでは、ないので、選ぶ余地は、ない、というのが実際なのですが、できるだけ発想の自由な人を選ぶようにしています。ジャズ系の知り合いがほとんどなので、「コードがなきゃ、だめ」とか言われてことわられることも、ありました。……今は、決まった相手とデュオをするというよりは、色々な人との意外性を楽しむ、という感じです。

では、最後に、前回インタビューした黒井さんからの質問「表面的に見ると、神田さんと私の音楽は全く違う音楽のように見えるかもしれませんが、私は、神田さんの出す音の中に、何か通じるものを感じています。音を出す、その一瞬を神田さんは、どのように感じていらっしゃいますか?
 自分の出した音、生まれた音を注意深く聴くことによって、次の音楽になる。……何か先にヴィジョンがあってそこから導かれた何か、ではなく、まず音がある、そこからまた音が生まれてくるような、あるいは音が空間に結界をつくる。そこから、別のひびきが導かれるような時間。黒井さんの演奏を聴いて、そんなふうに感じました。ひとつの音が、つぎへの契機となるという演奏のあり方、「何かに通じる」とすれば、こんなことなのでは、ないか、と勝手に思いこんでいます。(もっとも、ほとんどの即興には、こういった部分はあるのでしょうが。)
 ですから、私は、音を出す、その一瞬に何かを感じる、というよりは、音のあとに何かを感じたい(感じている)と思います。……もちろん、音を出す、その一瞬に神経を使うこともあります。その一瞬をどのように感じているのか、私はまだまだ未熟なので、これを、とうてい言葉には出来ません。私は今、変化している過程の、まっただ中なので……。


次回は、三宅さんのワークショップで出会ったという照内さん(ユニークバンドのピアニスト)の予定です。
そして、又、又、やってきました、私が去年見た映画ベストテンの季節。
私が、いい映画だと感じる要素、いろいろありますが、まず、簡潔な演出、いさぎよいカット割り。わかりきったことをくどくどと描かれたり、だらだらしたカット尻を見ているとイライラします。次は発想の新鮮さ、とにかく、こんなの今まで見たことない、という驚きは喜び、です。そして、どうしても気になるのが登場人物の言動、映画としては、いいと思っても、登場人物が、あまりにも腑甲斐ないと点数が下がっちゃうんです。あと、映画の中にジャズが出てくると、それだけで点数が上がっちゃうんです。スミマセン。というわけで10位まで順不同で、カリスマ(黒沢清) フィオナの海(ジョンセイルズ) バッファロー'66(ヴィンセントギャロ) 河、HOLE(共に、ツァイミンリャン) 嵐を呼ぶ楽団(井上梅次) 学校3000(太田光)(これ映画じゃなくて、テレビでやった、「学校」のパロディー、なんですけど) リプリー(アンソニーミンゲラ) もういちど(ポールコックス)(これは、これから公開なので、ぜひ) ミュージックオブハート(ウェスクレイヴン)。次に11位から21位、これも順不同です。
アナライズミー(ハロルドラ(レ?)イミス) ゴーストドッグ(ジムジャームッシュ) 御法度(大島渚) エイミー(ナディアタス) ファイトクラブ(デビットフィンチャー) ブラス(マークハーマン) I Love ペッカー(ジョンウォーターズ) シャンドライの恋(ベルナルドベルトルッチ) 氷の接吻(ステファンエリオット) マルコヴィッチの穴(スパイクジョーンズ) サイダーハウスルール(ラッセルハルストレム) 以上です。
そして、?????なのに無視できなかった1本、Pola X(レオスカラックス)

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