グッドマン・インタビュー

その87 (2001年12月)

鎌田雄一


望月芳哲(よしのり) (エレキベース)

1971年4月13日、東京、狛江に生まれ、育つ。
二松学舎大学、大学院、国文学研究科、博士後期過程単位取得。
グッドマンには、'99年6月より市村智tsとデュオで1ヶ月おきに出演。今年の8月からEMYU笛が加わり、トリオに。

文学とベース、どちらへの興味が先にあったの?
 もともとベースを始めたのは中学生からで、音楽への興味が、ミュージシャンの詞とか思想みたいなものへの興味へ変わって、文学に目覚めていったんだと思います。だから、自分の中では共通の問題設定として、文学もベースも、あるんだと思います。

共通の問題って?
 自分自身の表現手段という意味で、です。文学研究も論文発表という形で、自分自身を問う作業なので、そうした意味ではベースを弾くことの中でも絶えず自問自答しながら弾いています。自分自身の中では同根のものだ、と思っています。

それで、音楽活動と平行して、演劇活動も、している、というわけですね?
 そうです。演劇の方は、小さい劇団ですが自分が組織してやっていて、来年で、10年に、なります。舞台の上という共通性もさることながら、言語表現、肉体表現、また、集団での行為といった点では、演劇には演劇にしかないものがあります。
 僕にとっては、演劇で得たものが、ベースを弾くことに、かえってきていると思うし、また、ベースを弾くことで得たものも、演劇へ、とかえっていると思います。やはり、自分にとっては、いずれもが愛おしいものです。
 自分の演劇のテーマは、その芝居、芝居で勿論、異なりますが総じて言うなら、セックス、暴力、それらを通じて、宗教性の高みへ志向する個という問題を、情況との絡みの中で描いてきたんだと思います。そういう意味では、そうした高みへと志向するものを、自分の弾いているベースの中でも持っていたいし、だからこそ錯雑としたもの、混沌としたものの中に、自分のドラマツルギーを組み上げていくような形で、自分の演奏があるんだと思います。充分に出来ているわけでは、ないからこそ続けているんだと思いますけど。

演劇の方は、脚本も書いて、演出もして、とかなりハッキリ自分の世界をコントロールできると思うのですが、音楽、しかもフリーミュージックの場合、個人が全体をコントロールすることは難かしい、というか、問題外ですよね。その辺のことはキッパリ割り切ってるんですか?
 演劇の方でも、コントロールできているかといえば、やはり集団のことですから、なかなか一筋縄では、いかないと思います。でも自分としては、出来るだけメンバーの個性を生かして、表現出来るように、自分なりに考えています。やはり、その時の集団のイデアが芝居になっていて欲しい、そうした意味もあって、劇団の名前を「砂上の楼閣」という名前にしたんです。絶えず、一回性を大切にしたく思っています。そうした意味ではフリーミュージックと同じだと思っています。
 また、ベースという楽器の持つ特性というか、やはり全体の中での根っこを作っていく位置というのは、劇団の中で自分のやっていることと近いものだと考えています。どちらの時でも、その集団、情況の中での基調低音を考えている、という意味で……。

なるほど。……では、ここで前回インタビューしたEMYUさんからの質問で「演劇では役者として、どのような役割を、そして音楽では音楽家として、どのような役割を演じるのがすきですか?
 僕は俳優では、殿山泰司氏が大好きです。目立たない役でも、いなくては、ならない人、いれば、その場面が引き立つ人、その人そのもので、いつも自然体である人、そういう彼には、いろいろな意味で影響を受けていると思います。そういう位置や役割で音楽、演劇、に携われた、とおもっています。

タイちゃんはフリージャズが好きだったんだよね。あなたが、音楽の中でもフリーミュージックを志向した時期とキッカケは?
 フリーを意識したのは、やはり大学の時に聴いたコルトレーンからだったと思います。でも自分がそれを演奏することに向かわせたのは、ミルフォードグレイヴスの「Meditation Among Us」だったと思います。彼の音やメッセージにも共鳴しましたし、フリージャズと共同体、実存と即興との関係、情況とジャズ、といった間章(あいだ・あきら)的言説にも発奮させられました。

グッドマン以外では、どういう人達と、どんな所で活動しているの?
 ずうっと高円寺の「20000V」というライヴハウスで演奏しています。ギターの沫山数汎氏とデュオで、月に一度、8年間やってきました。彼は大学時代からの友人です。
 市村氏と出会ったのも、そこです。酒好きの、いい男だと思います。よくケンカもしますけど、ケンカするのも仲の良いしるしなのかもしれません。
 このデュオのおかげでいろいろな人に会うことが出来ました。石塚俊明氏(ds)は、僕がずうっとファンで、いつか、ご一緒したいと思い、無理をお願いしました。また、近所に住んでらっしゃる評論家の副島(そえじま)輝人氏との、おつきあいの中で北島一郎氏(tp)やSugiGochi氏(舞踏)と、お会い出来、一緒に演奏する中、大沼志朗氏(ds)、片山広明氏(ts)とも出会え、演奏させていただいてます。皆さんには、いろいろなことを教わるばかりです。また近所の飲み屋の関係で、中村達也氏(ds)や井上敬三氏(as)とも、お手合わせさせていただきました。やはり皆さん、一家言持っている人達で、いつも勉強させていただいている思いで一杯です。
 何はともあれ副島さんとの、おつきあいが大きなものだと思います。ご自宅に伺い、いろいろな話をうかがい、酔いつぶれて寝てしまうことが多々あったのですが、いつも暖かく見守ってくださって、フリーミュージックの流れを通史的に、うかがえたことが、自分の演奏に大きな意味を持っていると思います。そうした点では自分は物凄く多くの人に出会えて恵まれていると思います。なんだか「ありがとうございますコーナー」になってしまいましたが……。
 また、ロックの方も、やっています。仲のいい「チェルノ」というバンドと「望月・沫山Duo」とで合体バンドを作り、今、久々にやる曲に悪戦苦闘しながらも楽しくやっています。また、そこのギターの岸本淳一氏とドラムの森倉直氏とでトリオのバンドを組み、曲を練っている最中です。やはり、曲には曲の良さもあり、改めて自分にとってのフリーミュージックを再検討するいい機会に、なっています。そうした曲を弾く営為が、自分のフリーミュージックに、どうかえっていくのか、そうした意味で、とても楽しい作業です。ひとりのフリーベーシストとして、しっかりとした実力をつけていくべく、また色々な人と会うべく、引き続けていきたい、と思っています。

では、最後に、市村・望月・EMYU トリオでは、それぞれが、どんな役割(役柄)を演じているのでしょうか?
 市村氏は、なんだろうなぁ……。あぁ見えて結構、繊細なんですよね。モーニング娘、好きだし。結構、全体を考えながら吠えちぎってんじゃないでしょうかね。……EMYUさんは風のよう、風の音、そんな感じがします。全体に流れる一陣の風。……自分は……モーニング娘好きですけど……何ですかね。起爆剤?、でも、ちゃんと全体を考えての基調低音の中で弾いているつもりなんですが、どうなんでしょうか。
 サンダとガイラが竹林でプロレスをしている所に、一陣の風が吹く、そんな感じ、じゃないでしょうか。


望月さんちは、小田急線の狛江(狛江)から歩いて10分位。おじいさんが彫刻家で、お母さんも作品を作るそうです。本人も粘土を使って、そのうちやりたい、と言ってました。


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